先生からのメッセージ
- 青森県立中央病院 リウマチ膠原病内科 部長
腫れてぷよぷよとした関節の痛みを見逃さない
現在、抗リウマチ薬や生物学的製剤などをはじめとする薬物治療の進歩により、以前のように関節が変形した関節リウマチ患者さんを見かけることは少なくなりました。しかし、いまだに車いすで来院される方もいらっしゃり、これをなんとかゼロにしたいと考えています。そのためには、関節リウマチの初期症状について多くの方に知っていただき、関節が痛いときにはまずかかりつけ医にご相談いただくことが大切です。特に関節が腫れてぷよぷよとしてきたり、熱を持っているような場合には関節リウマチが疑われます。こうした症状を見逃さないよう日頃から気を付けていただければ幸いです。
体の防衛システムが関節を攻撃している
これまで長らく関節リウマチ患者さんを診療してきましたが、医師の診察を受けなくても安静にしていればそのうち良くなるかもしれないと思っている方や、当院に来るまで「痛み止めだけで何とかなる」、「痛みさえ取れれば病気をコントロールできる」と考えている方をよく見受けます。しかし関節リウマチとはそもそも自分の免疫が自分自身の体を攻撃してしまう自己免疫疾患(膠原病ともいう)であって、運動で関節を傷めることとは訳が違います。免疫は「疫病(流行り病の意)から免れる」と書きますが、文字通り病気にかからないために体に備わっている仕組みのことで、自己(自分自身の体)と非自己(侵入してきた細菌・ウイルス・異物など)を的確に認識・区別し、非自己を攻撃・排除して体を守る働きをします。ところが自己免疫疾患ではこの免疫システムが破綻しており、例えば関節リウマチであれば、自分自身の関節が非自己として認識されて免疫から攻撃を受け、その結果炎症が起きているのです。このため、治療としては攻撃を抑えるよう免疫システムに働きかける薬物療法が主体となります。
炎症は大火事になる前に鎮める
関節リウマチの治療は早期診断・早期治療が重要で、炎症を大火事になる前のぼやの段階でたたいてしまうことが肝心です。大火事になってしまえば鎮火も大ごととなり、大火事の後にはさらにぼやが残ってそこからまた大火事(炎症の再燃)が起きることもあります。患者さんの中には「治療はもう少し後でもいいだろう」とのんびり考えておられる方もいらっしゃるようですが、とにかく初めが肝心で、後手に回るとそれだけ治療も難しくなっていくものであることを心してください。いざ受診したときには既に色々な薬が効かなくなってしまっている可能性もあることを頭の片隅に留めておいていただければと思います。
ステロイドは漫然と使わない
当科では関節リウマチをはじめとした自己免疫疾患全般を診療していますが、自己免疫疾患では関節だけでなく様々な臓器に炎症が起きる可能性があります。そこで、自己免疫疾患との合併症が多い呼吸器内科や循環器内科の医師、さらにはステロイドに伴う副作用で糖尿病になる患者さんもいらっしゃるので、内分泌内科の医師などとも連携しながら診療を行っています。
関節リウマチに関しては、ステロイドは基本的に使用しない方針を取っています。ステロイドには炎症を強力に抑える効果がありますが、漫然とだらだら使うとやめにくくなってしまう可能性がありますし、長期投与では前述の糖尿病だけでなく、感染症や骨粗しょう症などの副作用も懸念されます。中にはリウマチ合併症の間質性肺炎で肺に病変がある場合など中止が難しいケースもありますので、減薬する場合も継続する場合もご自身の判断ではなく、主治医とよくご相談ください。
服用状況は隠さずに話して
人間、誰しも忘れることはあります。関節リウマチの治療で処方された薬をすべて正確に服用している患者さんはむしろ珍しいかもしれません。忘れた場合には、どの程度忘れていたのかなど具体的に医師に伝えていただくのが診察を受ける心得のひとつです。服薬状況が悪かったことが分かっていれば、症状が落ち着いている患者さんには減薬を検討し、悪化していても薬をすぐに増量することはありません。しかし、薬を飲んでいるものと思っていれば、今までの用量では薬が足りなかったと判断してしまう可能性があります。医師にいい顔をする必要はありません。むしろ、適切な治療を行うために「お願いだから本当のことを聞かせてほしい」というのが医師の本音なのです。
金澤 洋 先生
1994年弘前大学医学部医学科を卒業後、弘前大学医学部第一内科(現消化器血液内科学講座)に入局し、1998年弘前大学大学院医学研究科を修了する。2000年公立米内沢病院内科科長、2001年秋田社会保険病院内科医長を歴任し、2007年青森県立中央病院リウマチ血液内科副部長に就任する。2016年より現職。
青森県立中央病院
病床数:684床
所在地:青森県青森市東造道2丁目1-1