先生からのメッセージ

悩みや目標を共有し、それぞれの患者さんに最適な治療を

  • 千葉大学医学部附属病院 アレルギー・膠原病内科 診療准教授
Ikeda Kei
池田啓先生

診断・関節破壊予防の決め手は炎症の有無

 関節リウマチは、関節の内面を覆っている滑膜や、腱の周りを覆う腱鞘滑膜に炎症が起こり、その結果関節が壊れてしまう病気です。そのため、関節リウマチの診断や、関節破壊を予防するためには、滑膜や腱鞘滑膜に炎症があるかどうかを見極めるのが重要です。しかし、患者さんから伺う症状や関節の触診だけで炎症の有無を判断することはなかなか難しく、私たち専門医でも迷う場合があります。関節の超音波検査(関節エコー)では、関節リウマチの炎症をより早く正確に捉えることができます。私は関節エコーを実際のリウマチ診療に積極的に取り入れ、なるべく早い診断、そして適切な治療ができるよう、力を入れています。

池田啓先生

治療選択肢が増え、個々の患者さんに合わせた治療が可能に

 喜ばしいことに関節リウマチの薬物治療は急速に進歩し、治療選択肢は年々増えてきています。初期治療で炎症が取り切れなくとも、第二第三の治療選択肢があり、必要に応じて関節注射なども組み合わせることにより、多くの患者さんで炎症がほぼない状態を達成できます。一方、炎症よりも痛みの強い患者さんには、痛みに対して特に有効性が高いといわれている薬剤があります。

 また、人生のステージ毎に異なった選択が可能となっています。例えば妊娠を希望されている若い患者さんの場合でも、安心して使用できる薬剤があります。実際、関節リウマチの炎症が続いていると妊娠や胎児に悪影響を与えることが分かっており、むしろ積極的に治療することが推奨されています。

 また若い方だけでなく、高齢の方の適切な治療も大事です。元々筋力の低下している高齢者では発症後短期間で寝たきりになってしまうような場合もあり、早期の積極的な治療が若い方よりむしろ重要なこともあります。一方、腎臓の機能、感染症のリスク、合併症・併用薬などにつき考慮する必要がありますが、現在は治療選択肢が増えています。私は、高齢の方でも若い方と同じように、個々の患者さんに合わせたベストな治療を提供して行きたいと考えています。

関節と運動:関節を守り体の機能を保つために

 患者さんより「運動して良いですか?」と良く聞かれます。腫れるような明らかな炎症がある関節では、運動による負荷が関節を傷めてしまうため、無理に動かさないのが原則です。また、明らかに変形してしまった関節も、運動による負荷でさらに関節変形が進んでしまうため、装具やサポーターを使い日常生活でも余計な負担が掛からないよう助言しています。

 しかし、弱ってしまった体の機能を回復あるいは保つためには、関節周囲の筋肉の柔軟性や力を保つことも大切です。炎症や変形のない患者さんには、体操・ストレッチ・適度な筋力トレーニング・有酸素運動などをお勧めし、関節症状と相談しながら自分に合った運動を見つけるよう助言しています。

 一方、ある程度変形が進んでしまった患者さんで、なるべく負担をかけず筋力を保つには、関節を動かさず筋肉を収縮させ、負担をかけずに筋力を保つ「等尺(性)運動」といわれる運動療法などがあります。専門的な運動療法や装具に関しては、整形外科やリハビリテーションの専門医と連携し、個々の患者さんにあった方法を提案できるよう配慮しています。

池田啓先生

患者さん自身の声を大切に

 専門医にとっては、患者さんの体の機能や生活の質を保つため、如何に炎症を抑え、関節破壊を予防するかが大きな優先事項です。しかし、炎症と関節破壊を重視するあまり、患者さんの現在の困りごとに目が向かないことがあります。関節リウマチの患者さんの悩みは様々です。炎症が落ち着いている方でも、天候やストレスで関節がうずくことがいつも気になっていたり、薬を飲み続けることや通院が負担になっていたりします。関節リウマチは高齢者の病気という先入観を持った若い患者さんが、それだけで周りの人に言えず一人で思い悩んでいたということもありました。

 専門医は、炎症の治療はもちろんですが、個々の患者さんの声を聴き、共感することが大事です。困りごとを共有すること自体が悩みの軽減につながることもありますし、また信頼関係の構築により、より潤滑な治療につながると考えています。

患者さんと医師は同じ方向を見ることが大切

 近年、関節リウマチに限らずシェアード・ディシジョン・メイキング(協働意思決定)という考え方が近年浸透してきています。これは、何がその患者さんにとってベストな治療であるかを、患者さん・医師の双方で考えて、共有・決定していくというものです。適切な治療選択肢とその利点・欠点を患者さんに理解してもらうことが大事です。しかし、同じあるいはそれ以上に大事なことは、治療目標を共有することです。現在の困りごとや悩みも患者さんにより異なりますが、関節リウマチは長期的な治療が必要な病気であり、人生の中で何が大事かが治療目標に関わってきます。「こういう状態になりたい」というご自身の治療目標を考えていただくことが大事です。そして、そのような将来のビジョンを、患者さんと医師でお互いに共有し、同じ方向を見て治療して行くことが大切です。

池田啓先生

池田 啓

1997年千葉大学医学部を卒業、2000年千葉大学大学院細胞治療学に入局する。2005年シンガポール タントクセン病院研究員、2006年英国リーズ大学筋骨格疾患研究所研究員を経て、2007年千葉大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科助教、2017年同院講師となる。2021年より現職。

千葉大学医学部附属病院

病床数:850床
所在地:千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-1

取材:2022年
Page top