先生からのメッセージ
- 神戸掖済会病院 整形外科 部長

重度の関節破壊に至るケースは大幅に減少
当院が所在する神戸市垂水区では高齢化が進んでおり、近年では高齢者における関節リウマチの発症が増加しています。高齢で発症した場合でも、早期に治療を開始することで予後が大きく改善することがわかっています。最近では、抗環状シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)を用いた血液検査が確立され、これにより早期診断と治療が可能になりました。
また、関節リウマチの治療法も飛躍的に進展しています。以前は多くの患者さんが痛みや関節破壊により日常生活に支障をきたしていましたが、薬物治療の進歩により、現在では重度の関節破壊に至る患者さんが大幅に減少しています。その結果、多くの患者さんが生活の制限を受けることなく、快適な日常を送れるようになりました。
このような治療の進歩に伴い、関節リウマチに対する手術件数は減少傾向にあります。学会報告でもこの傾向が示されており、臨床現場でも実感されています。しかし一方で、関節の変形や破壊が進行し、手術が必要となる患者さんは依然として存在します。適切なタイミングで手術を行うことが、QOL(生活の質)向上につながるため、治療の選択肢として手術が重要である点は変わりません。
手術は筋力が維持されている段階で行う
当科で実施する手術の中心は人工関節置換術であり、特に膝関節の症例が多く見られます。また脊椎固定術によって脊椎を安定させる手術を行うこともあります。一方、以前は頻繁に行われていた指や足の関節形成術は、薬物治療の進歩により件数が減少しています。これは5〜10年前と比較すると顕著です。
手術のタイミングは、患者さんの訴えや画像所見から痛みや関節の変形の程度を総合的に判断します。しかし、筋力の回復には時間がかかるため、ある程度筋力が維持されている段階で手術を行うことが望ましいと考えています。さらに、脊椎手術では骨変形の進行が手術の難易度に直結するため、早めの介入が勧められます。

「歩けるようになった」という喜びの声が頻繁に
手術は多くの患者さんに劇的な痛みの軽減をもたらし、その結果、患者さんのQOLを大きく向上させます。この痛みからの解放が術後のリハビリテーションへの意欲を高める要因となっています。多くの患者さんが「しっかり歩けるようになりたい」という明確な目標を持ち、積極的にリハビリに取り組む姿勢が見られます。また、「歩けるようになった」という喜びの声も頻繁に聞かれます。特筆すべきは、手術前は車椅子を使用していた患者さんが、術後に杖を使って自立歩行できるようになるケースが少なくない点です。適切な手術とリハビリテーションの組み合わせにより、患者さんの移動能力と自立性は大幅に改善されることが期待できます。
治療方針の決定にはご家族の協力が不可欠
手術をはじめ、重要な治療方針を決定する際には、患者さんご本人の意見はもちろん、ご家族の協力も欠かせない要素となります。ご家族からは、患者さんの日常生活における活動能力の変化について、客観的かつ詳細な情報が得られることが多くあります。たとえば、「以前より動きづらくなってきた」や「特定の動作に困難を感じている」といった具体的な観察は、主治医が患者さんの状態をより正確に把握する上で非常に役立ちます。このようなご家族からの情報は、患者さんのQOLや機能的な状態を総合的に評価し、最適な治療法を選択する上で重要な要素となります。そのため、診察時にはできる限りご家族にも同席いただけると幸いです。


小橋 潤己 先生
2000年滋賀医科大学医学部卒業。同年大阪大学医学部整形外科入局、同大学医学部附属病院整形外科研修、大阪府立急性期総合医療センター(整形外科、救急科)。2002年住友病院。2004年国立病院機構大阪医療センター。2007年地域医療推進機構大阪みなと中央病院。2009年神戸掖済会病院医長。2018年より現職。
神戸掖済会病院
病床数:276床
所在地:兵庫県神戸市垂水区学が丘1丁目21の1